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墓石に刻まれた名前

 本家の向田邦子さんは、作中の人物を何と名付けるか迷うと、墓石に刻まれた名前を探して、墓地を歩きまわった。そうして生まれたのが主人公「寺内貫太郎」だったという。演出の久世光彦さんが晩年の随筆に書いている。……

 出典:中日春秋:中日春秋(朝刊コラム):中日新聞(CHUNICHI Web)(2018.5.9)

 

 長崎県平戸市景勝地「寺院と教会の見える風景」を歩くときは、きれいに積まれた石塀のなかに墓石を探しながら歩く。たしかにちょうどいい形をしている。

 墓石といえば、夏目漱石『こころ』の雑司ケ谷のくだりも印象深い。

 

 先生と私は通りへ出ようとして墓の間を抜けた。依撒伯拉何々の墓だの、神僕ロギンの墓だのという傍に、一切衆生悉有仏生と書いた塔婆などが建ててあった。全権公使何々というのもあった。私は安得烈とり付けた小さい墓の前で、「これは何と読むんでしょう」と先生に聞いた。「アンドレとでも読ませるつもりでしょうね」といって先生は苦笑した。

 

 「私」が揶揄を込めて語るのに対し、「先生」は「あなたは死という事実をまだ真面目に考えた事がありませんね」と応じて、この話題は終わる。このときの「私」はそうだろうが、物語が進むなか(第二部)で、父親や先生の死について考えざるを得なくなる。